第20回関西部会講演会は、2024年11月28日(木)に、AP大阪茶屋町 Aルームを講演会場として、Teamsによる遠隔視聴を併用したハイブリッド形式で開催させて頂き、多くの方にご参加を頂き、盛況に開催でき無事終了致しました。心より御礼申し上げます。
今回は、産業の米とも言われ、その復興が叫ばれています日本の半導体産業の現状や今後の技術戦略や産業政策について、また、誰でも簡単に使えるようなIoTセンシング系の枠組みを標準化され、提唱されておられる内容や、AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)技術を活用したスマート家電の開発を通じて、ユーザに快適かつ省エネな生活を提供されておられる内容について、大学や研究所、九州地区における産業界および学生に対する半導体産業の理解促進に努めておられる方や、社団法人や企業でIoTセンシングシステムの開発やAI/IoT技術を活用した新事業開発・展開をされておられる方々にご講演をして頂きました。
最初に講演1として、
九州大学 名誉教授 国立情報学研究所副所長 安浦 寛人 様に【日本の半導体産業の再生とシリコンシーベルト構想】のテーマでご講演をして頂きました。
最初に、半導体の活用状況やその特徴であるムーアの法則、日本の半導体産業の現状について紹介頂いた。次に、半導体を必要とするシステム産業(GAFA、自動車産業、家電・通信機器など)が先で、次に半導体産業があるという半導体産業の構図について、また、半導体産業を、浮世絵の構図を参照し、絵師、彫師・摺師、製本師の作業内容で分かり易く、説明して頂いた。日本の半導体産業は製造装置と材料に特化しており、これからは設計への取組みが必須であり、半導体市場は2000年から20年で約3倍に伸び、社会のデジタル化の基盤産業である。半導体は、メモリー、マイクロプロセッサ、ロジック、光半導体などの種類があり、付加価値があるマイクロプロセッサやロジックに携わることが必要である(高性能プロセッサは1個10万円から数百万円)。浮世絵でいえば摺師、彫師であるTSMSは、世界の半導体製造企業の売上高(2021年度)で3位であり、その伸び率も31.5%と高く、垂直統合と水平分業の国際水平分業化が進んでいる。スマホのMPUは、ARM(英国)のプロセッサを中心に米国でシステム設計し、台湾へ製造委託(前工程)し、後工程は、東南アジアや中国が担当し、製造装置は日、米、欧州から調達、シリコンウェアハなどの材料は、日本から供給するという構図である。特に、10nm以降の最先端技術では、TSMCが独占している状況にある。30年前は、半導体や半導体関連産業の生産額は、九州が台湾の10倍以上であったが、現在は台湾が九州の10倍である、逆転原因は人材育成の差である。日本は製造装置や素材に強みがあり、台湾と連携し、設計ができる人材育成が大切である。製造現場が近くにあることを利用して、設計産業を伸ばし、製造に近い物理設計(台湾モデル)にも注力することにより、半導体を利用したさまざまな分野の応用につながり、ソフトウェア産業やサービス産業、DXを先導する幅広いイノベーションが起こせる。2002年に九州に半導体関連技術、特に設計技術を集積し、韓国、九州、台湾、中国沿海部、シンガポール、インドに至る半導体の利用、設計、製造の世界的な拠点を作るシリコンシーベルトプロジェクト構想を立ち上げた。今は、世界の半導体の7割以上がシリコンシーベルト地域で生産され、その利用(システムへの組込み)も行われ、構想は実現できている。世界的な半導体産業構造と需要の変化の中で、日本の役割の明確化と実効的な産業政策の確立、若者が人生を賭けることができる半導体産業戦略などにより、半導体産業の再興が必要である。それには、半導体産業の全体像を把握し、将来を予測できる人材育成が必要である。先端技術に依存する産業は、常に世界の先端を走る必要があり、産業政策と研究振興が重要である。人材育成には、九州半導体人材育成等コンソーシアム人材育成等コンソーシアムとして産学官連携が進んでおり、九州大学価値創造型半導体人材育成センターや九州工業大学(マイクロ化総合技術センター)など先進的な取り組みもある。また、第1回九州半導体産業展やSemiconductor Wafer Test Asia 2024を開催し、九州地区の半導体産業をアピールしている。台湾の設計企業の誘致や企業投資も活発化してきている。半導体産業に若者が人生を賭けるだけの目標を持たせることが大切であり、台湾や韓国、ASEAN各国との連携などが必要である。半導体産業の現状から復興に向けての取組みなど今後の技術戦略や産業政策について興味ある内容をご講演して頂いた。
次に講演2として、
オムロン株式会社 イノベーション推進本部 DXビジネス革新センタ技術専門職 小田 利彦 様に 【だれでも簡単に使えるIoTセンシングシステム SUCS の紹介】のテーマでご講演をして頂きました。
最初にIoTシステムの新たなフレームワークである、誰もが簡単に実世界の現象をセンシングして、収集したデータをすぐに活用できる仕組みSUCS ® (SENSPIRE® Universal Connecting System)を提唱されておられるSUCSコンソーシアムやSUCSのVision、目指す姿について紹介頂いた。SUCSはセンサを構成するセンサユニット、AD変換ユニット、通信ユニット、電源ユニットの4つのユニットの接続仕様の標準化により、準拠した様々なユニットが利用でき、異なるメーカのユニットも接続可能となり、だれでも簡単にセンサが使え、色々とセンサを交換して計測することができ、短期に開発・試行することができる。接続仕様は、電気的仕様や機械的仕様、通信仕様、電源仕様、データマップが標準化されている。計測されたデータは、メタデータとして、観測活動や観測対象に関する情報やセンシングトレインの各ユニットの仕様情報、センシングデータの属性情報などがある。また、SUCSクラウドサービスも提供し、メタデータをクラウド上で登録・管理することで、様々なユーザが参照、共有が行え、センサデバイスメーカーやそのデバイスを使って情報をセンスするユーザ、また、計測したデータを活用するユーザなど、それぞれの立場のユーザが活用できる。SUCSのユニット接続やクラウドへの接続に関する基本的な特許は取得済みで、 SUCSコンソーシアムの会員は無償で利用することができる。具体的な各ユニットの提供は今後計画されつつあるとのことである。このような活動により誰でもセンサを使って早くかつ簡単に計測できる環境が実現できることに期待したい。センサシステムを誰でも容易に開発できることを目指された活動について、興味ある内容をご講演して頂いた。
次に講演3として、
シャープ株式会社 Smart Appliances & Solutions事業本部 Smart Life事業統轄部Platform事業推進部 課長 廣澤 慶二 様に 【シャープが進めるAIoT家電による省電力制御の取り組み】のテーマでご講演をして頂きました。
最初にIoT製品開発に必要なツール(スマ-トフォンアプリ、通信モジュール用のファームウェア、クラウドサーバと、これらを備えたAIoTプラットフォームについてご紹介頂いた。次にAI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)技術を活用したAIoT家電は、既に12カテゴリー、1,015機種以上で商品化され、国内で接続・稼働中で、自社家電/住宅設備やサービスとオープンに連携して、国内の99%をカバーし、利用されている状況を紹介頂いた。AIoT家電は、エアコンや空気清浄機の運転状態や調理機器の状態を確認したり、外出先からエアコンをつけたり、洗濯機の予約時間を変更したりといった状態確認と遠隔制御ができる。また、水なし自動調理鍋「ヘルシオホットクック」のレシピや「プラズマクラスター洗濯機」の洗濯コース、各家電の音声発話コンテンツなどがダウンロードできる。併せて、クラウドAIがどの様な動作が最適なのかを学習して、提案や遠隔制御を行い、エアコンでは、起床やお出かけ、帰宅、就寝といった生活パターンを学習することで、それぞれの状況に応じた快適性と省エネを両立でき、最適活用ができる。他社の製品やサービスとオープンに連携でき、家電としてまとめて制御でき、出かけるときに一括でオフするなど、機器だけでなく、他社の見守りサービスなどとの連携も行い、お客様のスマートライフの実現に貢献している。AIoT家電は、地域ごとの家電データ を活用した分析/制御も可能になっており、今後は、地域毎の稼働状況を分析することで、災害発生時に被害状況を推定するといった防災、減災への活用も計画されている。また、AIoTを活用した「社会課題の解決」として、家電は普段の生活の中で使われる道具である特徴を活かし、防災レジリエンス、安心/見守り、カーボンニュートラルの3つの方向性を考えている。特に、カーボンニュートラルについては、家庭におけるエアコンは家庭内消費電力の3割以上であり、家庭におけるデマンドレスポンス(DR:Demand Response)対応には、通信規格として実績があり、複数の機器を制御できるHEMSの活用に加え、機器単体IoT/ECHONET Lite/ECHNET Lite Web API を活用することでマルチベンダーによる対応機器増を図っている。NTTドコモが指定する対象時間帯に合わせてSHARPがエアコンを遠隔制御し、「対象時間帯の節電」「1日を通しての省エネ」「不快感のない制御」を確認でき、快適性と節電の両立の実現を目指している。シャープのAIoT家電について、開発内容やユーザに快適かつ省エネな生活を提供して状況などについて興味ある内容をご講演して頂いた。
また、最初に関西部会長の西村から講演会開催の挨拶をさせて頂き、最後に関西部会の鳥居幹事から講演会閉会の挨拶にて締めくくり、盛大に開催を終えることができました。
講演会後に開催しました交流会では、ご講演をして頂きました安浦様、小田様、廣澤様にもご参加頂き、ご講演者の方々とのお話や、参加された皆さん相互でのお話が進み、楽しく有意義な情報交換・交流の場として開催することができました。
講演会、交流会の開催に際しましては多くの方々のご協力を得て開催させて頂くことができました。真に有難うございました。深く御礼申し上げます。
引き続きIoTを中心とした関連技術に関する最新事例・技術研究を進めて応用ビジネスの発掘・展開に繋がり、関西地区の活性化に少しでも貢献できるように活動を進めさせて頂きますので、ご協力・ご支援の程、よろしくお願い申し上げます。
<会員様向け>
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2024年12月02日 NPO法人 M2M・IoT研究会 関西部会長 西村 雄二